大豆たんぱく質とβ-コングリシニン

大豆たんぱく質』については従来から健康によいとされてきましたが、生理機能についての研究で、 コレステロール中性脂肪、内臓脂肪を減らす機能があることか明らかになってきました。


■分離大豆たんぱく質

「大豆」は健康によい食品であると多くの人たちに認識されています。 大豆はでんぷんをほとんど含みませんが、高含有の油(21%)とたんぱく質(33%)が特徴となっています。

第二次大戦の終戦直後のわが国は食糧難にあえいでいました。 米国から送られた大豆粕(大豆油搾油後の脱脂大豆残渣で多量の大豆たんぱく質が含まれている)が、 肉類や卵などの入手が困難であった当時の学校給食に使われました。その後脱脂大豆より大豆たんぱく質を取り出す 技術が開発され、「分離大豆たんぱく質」が食品素材として生活の場に登場するようになりました。 米国食品医薬局(FDA)は、1日あたり25gの分離大豆たんぱく質を摂取すると、心臓疾患が予防できるという 食品表示を1999年に認めました。これは、大豆たんぱく質に血中コレステロール量や中性脂肪量を低減させる機能がある と知られるようになってきたことによります。

大豆・大豆製品を積極的に摂ることは意義のあることだと思いますが、それによって25gの分離大豆たんぱく質を 毎日摂取することは非常に難しいことと思われます。そこで、大豆たんぱく質を構成している複数のたんぱく質のうち 特定のたんぱく質がこのような機能を持っているのであれば、それだけを取り出して摂取できれば、少量ですむのではないか と考えられました。従来、大豆たんぱく質は2種類の主要なたんぱく質で構成されているとされてきました。 すなわち「グリシニン」(約60%)と「β-コングリシニン」(約40%)です。 しかし、新しい分離分析技術の開発により、大豆たんぱく質を構成する主要たんぱく質は3種類であることが明らかに なりました。すなわち、グリシニン(約40%)、β-コングリシニン(約20%)、および脂質を結合しているたんぱく質 (LP,約40%)であることが明らかになり、これにより、グリシニンやβ-コングリシニンの含量は、 今までいわれていた値より低いことがわかったのです。つまり、従来の方法で得られたグリシニン画分や β-コングリシニン画分にLPが混入していたことになります。大豆たんぱく質のコレステロール低下効果は グリシニンによるものとされてきましたが、最新の研究ではグリシニンではなくLPによるものであることが示されつつあります。


●β-コングリシニンによる中性脂肪低減作用

さらに興味深いことが発見されました。新しい分離法で取り出されたβ-コングリシニンが画期的な生理機能を持っている ことが明らかになったのです。すなわち、血中中性脂肪と内臓脂肪の量を低減させる作用です。 これは、ある研究グループが10年を費やして発見したもので、ラットでの試験や少人数のヒトでの介入試験を 繰り返して効果が確認されました。ヒトの場合、二重盲検という客観的手法をとることが必須です。 つまり、試験に参加した被験者には、自分が試験食を食べているのか、それともプラセボを食べているのかを知らせては いけないことになっています。もし被験者がそういうことを知ると、得られるデータに狂いが生じるからです。

その試験ではまず、食事要因などで血中中性脂肪が高い人を除いた後、血中中性脂肪が150mg/dl以上のボランティア126名 (平均血中中性脂肪量230mg/dl)をコンピューターで無作為に2グループに分け、 味、香りともに見分けの付かないようにしたβ-コングリシニン入り干し菓子とカゼイン入り干し菓子を それぞれのグループに摂ってもらい、日常の食事は何ら制限しませんでした。1日あたり5gのβ-コングリシニンおよび カゼイン摂取となりました。その結果、プラセボグループでは、血中中性脂肪量は期間中増加傾向にありましたが、 試験食グループでは、4週間で11.7%、12週間では13.5%減少しました。これらの値が確かであることは統計処理で 確認されています。その後試験食を中止するとリバウンドしました。興味深いことには、血中中性脂肪が200mg/dl以上では さらに大きな低減効果が見られたことです。一方、150mg/dl以下ではあまり効果は見られませんでした。 つまり、血中中性脂肪が正常な人にはほとんど効果がないが、高い人には効果的であるというきわめて特徴的な性質を β-コングリシニンが持っていることが明らかとなりました。


●β-コングリシニンによる内臓脂肪低減作用

メタボリックシンドロームは、現在大きな社会問題となっています。つまり、高血圧・高血糖・脂質異常などの 生活習慣病が複数重なると危険度が高まってきますが、内臓脂肪が増えるとさらに深刻度が増して動脈硬化へと進み、 最終的には脳卒中や心筋梗塞に至ります。現在、内臓脂肪を減少させる医薬品は市販されていません。 内臓脂肪は、へそ周りをCTスキャンすることにより得られる画像の面積を測定することで脂肪量を推定します。 この場合100平方cm以上が肥満ということになります。

先述の研究グループが、内臓脂肪量に対するβ-コングリシニンの低減効果を調べる試験を行ったところ、 95名のボランティアの参加がありました。 BMI25〜30、ウェスト85cm以上(男性)、90cm以上(女性)という肥満が参加条件でした。 被験者全員の血中中性脂肪量は、平均128mg/dlと正常で、肥満の場合血中中性脂肪量は高いのではないかという 予測は外れました。内臓脂肪量は平均107平方cmでしたが、全員が必ずしも100平方cm以上ではありませんでした。 半数が100平方cm以上でしたが、残りはそれ以下でした。

試験では、参加者を無作為に2グループに分け、一方にはβ-コングリシニン入り干し菓子、 他方にはカゼイン入り干し菓子を血中中性脂肪試験のときと同じように摂ってもらいました。 その結果、プラセボグループでは12週間後に内臓脂肪は4.4%増加しましたが、β-コングリシニンの試験食グループでは 約5%減少しました。これらの値は統計処理により確かであることが確認されています。 試験食グループのうち、内臓脂肪量が100平方cmを超える被験者のデータを集めたところ、約6.5%の減少が見られました。 一方、70平方cm以下では低減効果は見られませんでした。このことから、内臓脂肪が多いほどβ-コングリシニンの 低減作用が大きく働いているように思われる、という結果が得られました。


●最後に

以上述べたβ-コングリシニンの効果がどのような機構で発揮されているのかということを簡単に述べると、 以下のようになります。
肝臓で中性脂肪が作られ血中へVLDL(超低比重リポたんぱく)として分泌されます。 遊離脂肪酸3分子がグリセリンに結合して中性脂肪が作られます。β-コングリシニンは、中性脂肪の原料となる 脂肪酸を減少させる生化学反応を支援しています。その結果、中性脂肪の量が少なくなると考えられます。